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NMY

岩屋山と半国高山 (地図にない道と地図にある道)

GR

北山の地図を眺める度に、今まで行ったことのない空白がぽっかり空いているのが気になっていました。岩尾山と半国高山のあたりです。家からだとちょっと行きにくいところ。しかも、岩屋山を南北に貫く道はどの地図にも載っていません。今回はネットで拾ったGPXファイルの軌跡を頼りに、地図にない尾根道を探して行ってみることにしました。

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今日のスタートは、京見峠から。自転車で途中まで行って走り始めるという、始めての試みです。京見峠へは8年前に一度、自転車で登ったことがあったけど、峠を自転車で登ったのはそれっきり。しかも8年前は半分以上押して登りました。ダメ元で登れるところまで登ってみようと思ったら、何とか登り切れました。家を出てから30分後。思ったより早くスタートが切れて良かったです。

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京見峠から城山を超えて氷室へ降りるいつものコース。氷室からは京都一周トレイルのコースに沿って小峠へ向かう杉林へ。

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小峠の手前で北へ折れて、寺山経由で白木谷山に向かいます。展望台の先の十字路で間違えて左に曲がって氷室に戻ってしましました。正解は真ん中。寺山を超えてしばらく、走りやすいトレイルが続きます。

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そんなトレイルもすぐ終わって、ダートの林道が始まりました。太陽がジリジリと照りつけて、早くも汗だく。

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持越峠に合流する直前、山が崩れて道が塞がっていました。先月ここを通った時には普通に通れたので、最近土砂崩れがあったんだと思います。何とか端の方をよじ登って通過しました。

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持越峠からは山と高原地図にも、国土地理院の地図にも載ってない道へ。写真右手前の壁の隙間から突入です。

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道は不明瞭だけど、ずっと尾根道なので地形に気を配って尾根をキープしながら進みました。道標もマーキングもないので、何度も地図を確認しながら進みます。踏み跡の少ない、ワイルドなトレイル。顔も体も蜘蛛の巣まみれになりました。

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岩屋山の山頂は、三角点も山の名前を書いた札もなかったけれど、小さな小さな石塔がありました。

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岩屋山からは左に折れて縁坂峠に降りました。持越峠で地図にない道に突入してから、久しぶりに見かけた道標です。ちょっとホッとしました。尾根道が続きずっと給水できずに水が尽きかけていたので、半国高山に直接登らず真弓川の方に降りることしました。

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そしてやっとたどり着いた今日最初の小川。お腹いっぱい水を飲んでソフトフラスクを満タンにして、頭から水を被って復活しました。

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林道からロードに出て、真弓の集落へ。ここから半国高山へ登る道を選びました。

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小学校の小さな分校から右に曲がって登山道へ。真弓八幡宮の裏からトレイルが始まります。

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山と高原地図にも、国土地理院の地図にも載っている半国高山への登山道。これが曲者でした。谷間を岩谷峠に向かって登る、あまり距離も長くない道。途中からは道を認識できなくなり、谷間を流れる沢を辿って地形図を頼りに登っていきました。そんな沢も切り立つ岩肌に遮られ、両手両足で岩をよじ登った時は、さすがにちょっと怖かった。最早トレイルランニングではなく、ロッククライミング。岩を超えた後も、等高線を垂直に横切る地図を信じて両手も総動員して直登していきました。

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そうして何とか岩屋峠に出ると、明瞭な道があってほっとしました。真弓からの登山道はほんと曲者でした。今度来る時は縁坂峠から登りたい。

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辿り着いた半国高山の山頂で、ゆかりおにぎりをいただきました。めちゃくちゃでかい。

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山頂からの下りは結構急だったけど、道が分かりやすくてそこそこ走れる下り。供御飯峠からは左に折れて中川の方へ向かいます。

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林道からロードに下りると清滝川が。頭から川へ突っ込んでしばらく浸かっていました。もう最近はこの瞬間を楽しみに走っています。

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ここからはロードで南に向かいます。中川を通り、先週に引き続き東海自然歩道を通って上ノ水峠に向かいます。

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そして今週も途中で菩提の滝へ。ここは水が本当に冷たくて最高です。滝壺も深くて頭まで全身潜れます。

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上ノ水峠からは、京都一周トレイルのコースに沿って京見峠の方に抜ける道。あの踏み跡のない岩屋山への尾根道や、岩肌をよじ登った半国高山を超えて来ると、整ったこの道がほんとに優しく感じます。京見峠で今日はフィニッシュ。今日は29.4km、6時間49分間の旅でした。停めていた自転車に乗って帰りました。

しかし京見峠からの自転車での下りはめちゃくちゃ怖かったです。スピード出まくるので、ブレーキかけながら恐る恐る下りました。みんな自転車のダウンヒル、どうやって下ってるんだろう。

林道多めで保津峡から自宅まで

PK

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今週はJR嵯峨野線に乗って保津峡駅へ。朝7時にスタートです。

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保津峡に流れ込む水尾川沿いのロードを北上して柚子の里、水尾へ。旧道はすぐ脇に川があって、木陰になってて涼しい。途中、明智越への分岐もありました。

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水尾の浄水場の脇に愛宕山への取り付きがあり、今日はこっちから登ります。水尾からの登りは石段がないものの、道幅が広くて登りやすかった。

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水尾の分かれで表参道と合流。

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表参道には先週は無かった電球がずらりと張り巡らされていました。もうすぐ千日詣りだからかな。

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3週連続でやってきた愛宕山。今週は霧もなくいい天気で眺望も良かった。

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今週は竜ヶ岳には登らず、直接首なし地蔵へ向かう道へ。

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天気が良くて低木が多いので、木漏れ日も多く漏れていて明るい雰囲気。そこそこ標高もあるのであんまり暑くもなく、気持よく走れました。

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首なし地蔵、今日はこのまま真っ直ぐ林道へ出る道を進みます。

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水が切れかかってきたところでウジウジ峠手前の水場を発見。めちゃくちゃ冷たくて最高だったけど、水場にずっとアブと蜂がいて水汲んでると群がってくるの止めて欲しかった。

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ウジウジ峠、榧ノ木峠、松尾峠とひたすら石の多いダートの林道を走り続けました。ソールの薄いサンダルで来たので、石踏んだ時のダメージがだんだん蓄積してきて足がだるくなってくる。

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やっと林道が終わって峰山へのトレイルへ。全く期待してなかったけど、ここのトレイルが最高でした。林道の石を踏みまくった足の裏を優しく包み込むフカフカのトレイル。

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峰山の山頂。今日はここでセブンイレブンで買ったわかめおにぎりを頂きました。

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下りは倒木三昧で結構ワイルド。下りきったところは高山寺の裏でした。観光客で賑わう境内をびしょぬれタンクトップにサンダルのおじさんがいきなり山から降りてきたという感じで恥ずかしかった。

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今日はいつもの沢ノ池への林道を通らずに、東海自然歩道を通ることに。自然歩道と行っても、中川までしばらくは国道のロードだけど。丁度晴れてきてめちゃくちゃ暑く、脇を流れる清滝川へ降りる道を探しながら走り続けた。

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中川トンネルの手前でやっと川に降りられた。思いっきり突っ込んでしばらくクールダウン。汗まみれで臭くなってたタンクトップも洗って絞って再スタート。

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そこから沢ノ池や上ノ水峠へ続く道に折れてしばらく進むと、菩提の滝への道標が。これは行ってみるしかないと川の方へ降りていきました。

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そして現れた菩提の滝。落ち口から滝壷まで一気に落下する力強い滝。滝壺へと飛び込むと結構深くて、足が付かないくらい。冷たくて気持ちよかった。

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上ノ水峠に到着。ここまで来ると帰ってきたなあと感じます。いつものトレイルを下り、紙屋川沿いのロードを下って原谷へ。

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原谷のミニストップでソフトクリームを食べて帰りました。34km、6時間ちょっとの旅でした。今日は34度超えた暑さの京都だったけど、川や滝のおかげで結構涼しく走れました。

夏は川沿い

GY

今週はどこの山を走ろうかなと地図を眺め、結局先週と同じ愛宕山にしました。30度を超える暑さにやられ、ついつい清滝の方に脚が向かってしまいます。頭から川に突っ込みたい、湧き水を腹いっぱい飲みたい。愛宕山周辺の豊富な水の魅力に惹かれて、今週は電車に乗って嵯峨嵐山駅からスタートしました。

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京都一周トレイルのコースに沿って、嵐山の石畳の上を走ります。朝8時前だというのに暑くて、既にじっとり汗が。

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鳥居のところで左に曲がって六丁峠へ。この峠はいつも薄暗くて雰囲気があるので、ロードだけど気持よく登ってしまう。

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六丁峠を超えて下っている時に見えた保津峡。緑が濃くて綺麗。

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下りきって清滝川へ。既に汗かいていてもう飛び込みたいけどまだまだ我慢。愛宕山登ってからのご褒美にとっておきます。

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清滝から愛宕神社の表参道へ。愛宕山へ登りは石段が多くひたすら4km登りが続きます。登山客も多いけど道が広くて登りやすいし、みんなで登ってる感があってつい張り切ってしまう。特に山ガールのグループ追い越す時に。

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100mごとに地元消防団の看板があって全てにそれぞれ一言添えてあるのだけど、途中でネタが尽きてきたのか興が乗ってきたのか、おかしなテンションの看板がちょいちょいあって面白い。

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ゴミ箱男のラブレター。標高が上がって出てきた霧と相まって趣があります。

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麓は晴れてたのに、だんだん霧が濃くなってきました。先週来た時も同じでした。愛宕山はいつもこうなのかな。神々しい。

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黒門。

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登り切って愛宕神社でお参り。先週は小銭持ってなくて手前で折り返したけど、今日は10円持ってたので参拝できました。

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今日はそのまま月輪寺の方に降りずに竜ヶ岳へ。この辺のトレイルは低木が多いけど密集してなくて、フカフカのトレイルでとても走りやすい。まさに天国です。

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最高のトレイルを気持ちよく走って竜ヶ岳山頂へ。しかしここからの下りが激しかった...。

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かなり急な下りで岩場も多く踏み跡も少なくて、ゆっくり一歩一歩下っていきます。1リットル持ってた水も切れかかってしんどくなってきたところで、やっと下りきったら目の前に小川が!

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すぐに突っ込んで頭から水を浴びて、腹いっぱい水を飲みました。やっぱり川は最高。2つのソフトフラスクを満タンにして出発。

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竜の小屋を超えて、首なし地蔵から梨木大神の方へ。

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梨木大神への下りも川沿いで気持ちよかった。粘土質の赤土やガレガレの岩場など、走りやすくは全然ないけど、川が隣にあるだけで最高。

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梨木大神からは林道を一気に下って月輪寺への登り口まで。ここから今日は空也の滝に行くことにしました。滝へ向かう道に入ってすぐにこの雰囲気。

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気が引き締まります。

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そのまましばらく滝に打たれました。

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体も頭も冷えて引き締まったところで林道に戻り、清滝川へ下っていきます。いたるところにある水場。さっき滝に打たれたばかりだけど、頭からかぶりました。水は何度かぶっても良いものです。

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清滝川へ降りたところでおにぎり。山へ行くときは妻がおにぎりを握ってくれるのだけど、朝1つ食べて、もう1つを山に持って来ました。山へ持っていくのは、いつもゆかりおにぎり。

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高雄まで清滝川沿いを走って、京都一周トレイルに沿って登りの林道へ。沢ノ池の手前で鳴滝の方に降りるトレイルを通って福王寺まで降りて、そこからいつものジョギングコース走って家に帰りました。


全部で34.8km、7時間の旅でした。がんばって走るというより、水と戯れてばかりいて時間がかかったけど、夏の川沿いコースを堪能しました。来週はどこの山に、川に、行こうかな。

今年も比叡山インターナショナルトレイルランを走りました

BN

あれから1年。去年の第1回大会は、僕にとって初めて参加したトレイルランニングのレースでした。初めてのレースで、制限時間43秒前にゴールに滑り込んだ最終ランナーになりました。その様子を綴ったブログ記事は、RUN+TRAILに5ページに渡って掲載していただき、実家の母が大変喜んでいました。

あれから1年。色々なことがありました。トレランのレースは、11月にFAIRY TRAIL 高島朽木トレイルランレース、12月に東山三十六峰マウンテンマラソンを走りました。右膝を痛めて走れなかった時期や、仕事が忙しすぎて走れなかった時期もあったけど、週末に早起きをしては京都の色んな山を走ってきました。近藤さんや同じビルで働く西さんと一緒に山へ行ったりもしました。

だから、去年と較べたら随分早くなったに違いないと思っていました。早くなってないとおかしい、くらいに。だけど、レース本番の2週前に後半30kmの試走に行き、タイムを確認して愕然としました。去年試走に行った時より、遅かったのです。また調子にのりかかっていた僕はハッとしました。去年完走できたとは言え、制限時間に間に合ったのはスイーパーの皆さんのおかげでした。比叡山は厳しいレースです。調子ぶっこいてたらあかんと気を引き締めて残り2週間練習を続け、レース当日を迎えました。

今年は近藤さんの車に乗せてもらって、延暦寺へ向かいました。朝から曇り空で気温も高くなく、33度を超えた去年に比べるとずいぶん走りやすそうな天気です。加えて、今年は2組に別れてのウェーブスタート。渋滞も緩和されそうだし、気温も高くなさそうだし、去年よりも1時間くらい早くゴールしたい。10時間を切りたい。サブ10が目標でした。

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第一の試練:煩悩との戦い

第1ウェーブのスタートから20分後、9時20分に僕たち第2ウェーブはスタートしました。延暦寺境内をゆっくり走って、東塔の裏からトレイルに入ります。去年は20分近く並んだ渋滞ポイント。今年はほんの数分でトレイルに突入できました。大比叡まで登ってからは、走りやすい下りが続きます。つつじヶ丘を超え、スキー場跡地を横切ってから、走り慣れた京都1週トレイルのコースに入りました。

快調にステップを踏んで下っていると、僕の前を女性のランナーが走っていました。フワフワしたスカートをはためかせ、同じくらいのペースで下っていきます。スカートをはいて走る方はたまに見かけますが、フワフワのスカートで走っている人を見るのは初めてでした。しばらく下りが続くからと油断していましたが、水飲対陣跡あたりで1回急な登りがあることを思い出しました。このまま登りに差し掛かったらまずい。登りで顔を上げてはならない。この比叡山の地で課せられる最初の試練が、まさか煩悩との戦いとは…。

丸太の橋がかかった沢を渡り、急登が始まりました。じっと自分のつま先を見つめ、黙々と登ります。少なくとも周囲からは、黙々と登っているように見えたはず。内側では急上昇する心拍と、膨れ上がる煩悩との戦いが熾烈を極めていました。顔を上げないと、少し先の路面の状態がわからない。顔を上げるのは、路面の状況を確認するためだ。路面を確認した上で、足をどこに置くのが効率的か考える必要がある。あくまで、路面を確認するために。

そうして意を決して顔を上げると、僕と同じくらいの年令の男性が、息を切らせて登っていました。乾いた笑いが漏れました。

第二の試練:去年の自分との戦い

スタートから1時間40分で、ロテルド比叡脇の最初のエイドに到着しました。コーラを飲んで、バナナやあんぱんを頬張ってすぐに出発しました。少し飛ばし気味ではあるけど、悪くないペースです。坂本までの下りも、前を走っていたSalomonの靴の人に何とかついて行こうと必死で走りました。

そして、坂本からの厳しい登りが始まります。日吉東照宮の急な石段を登ったところの私設エイドで、凍らせたゼリーをいただきました。冷たくて喉に気持ちよかった。そして練習で何度も訪れた、比叡山高校の野球場へ向かいます。野球場の脇に、比叡山高校野球部の人たちがずらっと並んで応援してくれていました。ここを走る時はいつも野球部が練習していたので、僕は勝手に同志だと思っていました。そんな野球部の応援、ジンときてしまって涙腺が緩みます。ありがとう、ありがとうと頭を下げて、ライトの裏からトレイルに入りました。

坂本からもたて山への登り、何度登っても厳しく苦しい道のりです。ここまで飛ばしてきたこともあって、心拍も170近くまで上がってきました。急登へ差し掛かると、道の脇に逸れて立ち止まり、呼吸を整えている人がちらほらいました。僕も少しだけ、立ち止まって休みたい。甘い誘惑です。でも、去年はこの登りで、一度も立ち止まりませんでした。去年は井原さんに何とかついて行こうと、必死で歩き続けたのを思い出しました。ここで1回でも立ち止まったら、去年の自分に負けることになる。他の誰に負けてもいいけど、自分にだけは負けたくない。とにかく立ち止まらないこと、歩き続けること、それだけを考えて登りました。

野球場からケーブル比叡駅までの2.7km、43分で登りきりました。去年のタイムが48分。1年かかって縮められたのはたったの5分。それでも、この5分が僕の勲章です。

第三の試練:横高山との戦い

第2エイドに戻ってきたのはスタートから3時間20分。去年より40分早いタイムです。3時間30分を目標にしていたので、気を良くしてエイドに突入しました。そばとうどんを1杯ずつたいらげます。去年もいただいた鶴喜そば。あまりに美味しくて、つゆまで飲み干しました。ハイドレーションパックに満タン2L入れていた水はそこまで減っていなかったので、水は補給せずに出発しました。

徐行区間はゆっくり走って、青龍寺への下りから加速していきます。去年右膝を痛めた石段の下り。衝撃を恐れて膝を曲げて着地すると筋肉の疲労が激しくなるので、膝をなるべく曲げないで、一本の骨で着地するイメージで地面に足をぶつけていきました。疲労は感じるけど、今年は膝が痛くありません。そのまま駆け下りて、いよいよ横高山に挑みます。

去年はこの横高山の麓で脱水症状になり、20分間道端に座り込みました。あの道端の藪を懐かしく思いながら駆け抜けます。今年は気温がそれほど高くないけど、それでも用心して最初から塩熱サプリを度々とっていました。

迎えた横高山。登り口の沢で頭に水をかぶって登り始めます。ここは同じくらいの傾斜が延々と続きます。変化がなく、ただひたすら登り続けるという精神を試される登り。ジグザグのトラバースが何度も何度も続きます。去年は途中で休み休み登りましたが、今年は立ち止まらないで登ろうと思いました。坂本からの登りでも出来たんだから、横高でもできるはずだと。上を見るとトラバースを折り返してきた人が見えてげんなりするから、足元だけを見ながら登りました。

せりあい地蔵にて

そうして登り続けること40分。賑やかな声が聞こえてきました。せりあい地蔵の私設エイドです。もうしんどくてしんどくて、この登りいい加減にして欲しいと心が荒み始めたところでした。もうすぐエイドというところに、狐のお面を被った人が踊っていました。狐の目がこっちをじっと見つめていて、軽やかに舞っています。あまりにシュールな映像に、思わず吹き出してしまいました。

そして登り切ったところに、鏑木さんがいました。鏑木さんと両手のグーを合わせて気合を入れてもらい「去年最下位だったので、今年はがんばりますよ」と声をかけました。そしたら鏑木さん、覚えてくれていたようで「ああ、あの!」と言って両手で長い髪がフサフサしてるようなジェスチャー。去年、僕はパーマのかかった長髪でした。あれから抗癌剤治療で髪の抜けた妻とお揃いにしようと頭を丸め、そして抗癌剤が終わって伸び始めた妻の髪と一緒に伸ばし始めたところ。鏑木さんが覚えていてくれて、嬉しかったです。来年は鏑木さんの記憶の中にある、あの長髪で帰ってきたいなと思いました。

せりあい地蔵の私設エイドは、ものすごい賑わいでした。「コーラあるよ!」「メロンあるよ!」「水いりますか!」全部いただきました。メロンがあまりに美味しくて、2切れいただきました。コーラをグビグビと飲み干し、ハイドレーションパックに水を補給して、最後の横高山頂への急登へ挑みました。

第四の試練:達成感との戦い

横高山山頂手前の壁のような急登を超え、少し下った後の水井山への壁のような急登も超えて、滝寺までのそこそこ走れるトレイルに差し掛かります。だけどこの比較的楽な区間で、全く脚が動きません。膝が痛いわけでも、脚が終わっているわけでもないのに、頑張れば走れるゆるい登りでも、歩いてしまう。そうして次々と後ろのランナーに道を譲りました。

坂本からの登りを、横高山への登りを、一度も立ち止まることなく登り切った。この50kmに及ぶ厳しいコースの中でも、一番厳しい登りを登り切った。もう十分がんばった。そんな気持ちがあったんだと思います。まだ何も成し遂げたわけではないのに。どうしても気持ちが入らない。京都一周トレイルから大尾山へ続く尾根道に入っても、とぼとぼと歩いていました。周りのランナーはゆっくりでも走っています。歩いている自分が情けない。でも、一歩が踏み出せない。

しょぼくれて歩いていると、コーラをランナーに振る舞っている方がいました。魔法瓶からマイカップに注がれたコーラは、キンキンに冷えています。冷えたコーラ、最高です。しょぼくれて怠けていたランナーに、わざわざ魔法瓶で冷えたコーラを提供してくれる人がいる。これを飲んで走らないのは、さすがに失礼だと思いました。ごちそうさまでした。お礼を言ってから、走り始めました。

大尾山を超えて、ずるずる滑りまくる下りをロープを頼りに下り、パラグライダーの発着点からロード区間を挟んで滝寺へ下っていきます。この辺りでようやく元のペースを取り戻しました。とにかく最後まで精一杯走ろう、そう思いました。

仰木峠

滝寺のウォーターエイドでも、壮大な私設エイドに迎えられました。冷たい水のシャワーを頭から浴びさせてもらいます。シャワーが浴びれるエイドなんて、初めての体験です。コーラをいただいて、水を補給して、長い長いロードの登りに挑みます。

この辺りになってくると、周りを走っている人たちの顔ぶれがお馴染みになってきました。だいたい登りで追い抜かれて、下りやフラットな区間で抜き返すというパターン。仰木峠へのロードの登りでも、次々に抜かれていきます。少しでも悪あがきしようと、抜かれた赤いシャツの男性に付いて行いくことにしました。少しずつ差は広げられるけど、何とか前に出す足のピッチを少しでも早めようと追いすがりました。

37km地点の仰木峠の第三エイドに着いたのは、スタートから7時間経った頃でした。目標の10時間を切るためには、残り13kmを3時間。1km12分のペースでも行ける計算です。これは行けるぞと思い、地元の方々の手作りフードを堪能しました。おにぎりを食べた後に、紙コップに入ったそうめんをいただきました。そうめんが美味しすぎてもう1杯おかわり。デザートに手作りゼリーをいただいて出発です。

ここからはロードの下り。得意のロード区間です。下りのロードが得意だなんて。トレイルランナーを自称するの恥ずかしいレベルですが仕方ない。仰木峠への登りで抜かれた人を追い抜いて、登り返す地点に差し掛かりました。地元の方々の応援と、ちそジュースをいただき、横川への登りに挑みます。

第五の試練:大腿四頭筋との戦い

残り10kmを切り、脚の筋肉のバッテリー残量が切れかかっていました。墓地の脇からドライブウェイの上にかかる橋を渡って登りのトレイルに差し掛かるころには、腿の筋肉に力が入らず、プルプル痙攣し始めました。登りの度に後ろの人に追い抜かれる。もう登りはあと2つしかないのに、最後まで抜かれ続けるのかと思うと情けなくなってきました。一度ドライブウェイに出て、もう一度トレイルへ。

決めました。次に追い抜かれたら、その人に付いて行こう。ずるずると追いぬかれ続けてゴールを迎えたくない。最後まで足掻いてみようと思いました。攣りそうになる腿を何とか誤魔化しながら、抜かれたグループの最後尾に食らいつきました。

そうして何とか琵琶湖展望台へ。もう息が切れてしんどくて、色々絞りきってたどり着いた展望台。この一番苦しいところで、またコーラを振る舞う方が。本当に、絶妙すぎます。今年のレースは、私設エイドに何度も助けられました。坂本からの登りの手前でいただいた凍ったゼリー、せりあい地蔵のメロン、大尾山への登り口で魔法瓶のコーラ、滝寺で浴びたシャワー、そしてここ琵琶湖展望台。急登のトレイルを登り切ったタイミングだったり、これからきつい登りが始まるというタイミングだったり、僕の心が折れかかる度に支えてもらいました。

去年は最終関門ギリギリのタイムで焦りながら登った横川の石段も、黙々と登りました。エイド手前のトレイルも超えて、スタートから8時間8分、ついに横川エイドに到着しました。

1年越しの再会

横川エイドで、去年スイーパーをして下さった方と再会できました。あの時お世話になった3人のスイーパーの方々のお1人です。3人の内、1人の方とは去年11月のFAIRY TRAILのエイドでお会いできました。早いやんがんばって!なんて声を掛けて頂いて、僕もスイーパーをしていただいた時のお礼が言えて嬉しかったです。

2人目の方には、スタート前にお会いできました。近藤さんともお知り合いのようで、スタート前に声をかけて頂いて1年あっという間だね、なんてお話をしました。

そしてここ横川の最終エイドで、3人目の方とやっとお会いできました。エイドに入るや否や声をかけていただいて、覚えて下さっていたことが嬉しかった。がっちり握手をして、去年はありがとうございましたとお礼を言いました。1年越しにやっと、伝えることができました。

第六の試練:下腿三頭筋との戦い

残り5km。スタートから8時間10分が経過していました。目標にしていた10時間切りまで、あと1時間50分もあります。ここからは去年からコースが変更になり、3kmは緩やかな下りの走りやすい林道が続きます。ここで、もしかしたら10時間どころか9時間が切れるかもしれないと思いました。3kmをキロ5分で飛ばせば15分。そうすれば残り2kmを30分ちょっとで登ればいいのです。ロードではないものの、走りやすい得意の下り。これは行くしかない、そう思ってペースを上げました。

キロ6分を超え、キロ5分半、そしてキロ5分を超えた頃でした。快調に飛ばし、どんどん周りのランナーを追い越して調子に乗り始めた頃、ふくらはぎの筋肉が攣りました。慌てて林道の脇で立ち止まり、ストレッチ。さっき抜いたランナーに抜き返されます。

ふくらはぎの痙攣が落ち着いて再び走りだしても、ちょっとスピードを上げるとまた攣りそうになり、スピードを緩めました。たった3kmの林道が、果てしなく続くように感じます。最後2kmの登りに差し掛かった時には、9時間まで26分と微妙な時間に。

最後の登りでは、ふくらはぎに加えて腿も痙攣して、脚全体が攣りました。何度も立ち止まってはストレッチを繰り返しました。去年はスイーパーの方々に助けられたこの登り、今年は独りです。イチニ・イチニと自分に心の中で声をかけ、痙攣する脚を騙し騙し登りました。

そうして最後の1kmに。8時間50分。さすがに9時間を切るのは絶望的になってきたけど、何故か脚の痙攣は止まっていました。長かったこの旅も、あと1km。舗装路に入って更に傾斜のきつくなる登りでしたが、ペースは落ちませんでした。

ゴール

この1年間のことを思い返していました。去年の比叡山のレースの後、3日後に妻が入院して抗癌剤治療が始まった時のこと。抗癌剤の副作用で苦しむ妻を置いて、東京出張に行った日のこと。手術の日に、京大病院の4Fのベンチで看護婦さんに呼ばれた時のこと。そして全てを乗り越えて、懸命に生きる妻のこと。

最後の急登を超える頃には、ちょっと泣きそうになっていました。僕が山を走るのは、趣味です。自分の快楽のために、好きなことをしているだけです。24時間テレビのように、走ることに何かを仮託するのは大嫌いでした。でも、最後の登りで浮かんできたのは、そんな安っぽい走馬灯でした。

そして、最後の登りを登りきったところに、妻がいました。びっくりしました。ゴールで待ってると思ったのに、このタイミングで出てくるのかと。先にゴールして待ってくれていた近藤さんも一緒でした。そして近藤さんが、一緒にゴールしなよと勧めてくれました。残り数十メートル、妻の手を取って一緒に走りました。

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9時間4分53秒。サブ9は叶わなかったけれど、去年から2時間近く縮めることができました。去年はスイーパーの方々のお陰で完走できたから、今年は自力で完走しようという目標でした。でも、今年の完走も自力とは言いがたいものでした。沿道で応援して下さった皆さん、私設エイドでコーラやゼリーを振る舞って下さった方々、仰木の地元のおばちゃん達、鏑木さん、今年も応援して下さった去年のスイーパーの方々。そしてこの1年間、闘病しならがら山へ走りに行くことを許してくれた妻。

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今年も大好きな比叡山を走り切ることができました。本当に、ありがとう。

比叡山インターナショナルトレイルラン2015に参加しました

IV

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比叡山 International Trail Run 2015 に参加しました。僕にとっては初めて参加するトレランのレースです。今年の2月に初めて京都マラソンを走ったので、京都の街の次は京都の山を走りたい、そんな考えで選んだレースでした。僕に走るきっかけを与えてくれた井原さんがエントリーするらしいから、一緒に走りたいなという気持ちもあって。今考えると、本当に甘い考えでエントリーしたもんだと呆れます。地元京都で何度か走ったことのある比叡山だし、距離も50kmだからそんなに長くないし、くらいに最初は思っていました。

そんな甘い考えが打ち砕かれたのは、コースが発表された4月の頭でした。いつもならバブテスト病院の脇から瓜生山経由して徐々に登っていく比叡山を、坂本からわずか4kmで登り切るなんて。いつもなら比叡山頂から尾根づたいに超える横高山の壁みたいな山頂付近を、一旦全部降りきってから登るだなんて。初めてのトレランで、何という難易度のレースにエントリーしてしまったんだと思いました。でも出るからには絶対完走したい、そう思って当日まで黙々と走りました。

レース前日、東京から井原さんがやってきてうちに泊まりました。去年の6月頭に、京都一周トレイルを走りにきた井原さんからトレランの話を聞いて、近所を走り始めたのが全ての始まりでした。あれから1年、こうしてまた井原さんが泊まりにきてくれて、一緒にレースに参加できるなんて、少し夢みたいだなと思いました。

当日は早起きして、井原さんの運転でレンタカーに乗って比叡山に向かいました。よく晴れたいい天気です。でも、このいい天気が曲者でした。ほんとにね。

10km スタートから 1A ロテルド比叡前まで

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初めてのレースだったので、スタート地点では最後尾近くに並びました。出走した1000人近い人たちが一気に東塔の裏からトレイルに突っ込んだらどうなるか、あんまり考えてなかったんですね。

9時ちょうどにスタートしてから東塔まで歩いて、トレイルに入る手前のところで20分くらいじっと並んで待っていました。渋滞待ちです。これが渋滞かーと呑気に眺めながらも、20分もロスしてしまったことに焦っていました。前半20kmは4時間で帰って来ようと思っていたのに、3時間40分しかなくなったと。

大比叡を超えてからも行列は続き、あんまり追い越したりもできないから焦りが募っていきました。瓜生山の手前から一本杉までの登りも、前の人にぴったりくっついて地道に登っていくしかなかった。そうしてじりじりと暑さに焼かれながら、行列のペースに従って第一エイドまで進みました。

20km 坂本への下りと 2A 根本中堂への登り

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第一エイドではバナナを食べたりコーラを飲んだりして、すぐに出発しました。井原さんに「ここから走れる下りだから走りましょう」とか偉そうに言っちゃって。無動寺を走り抜け、遠見岩も素通りして、坂本までの6kmちょっと、思いっきり走って下りました。

そして前半の山場、坂本からの急登です。わずか3km程で、比叡山を一気に駆け上がる厳しい登りでした。33度にも達した猛暑も相まって、何度も脚が止まりそうになります。もうここで止まって休みたいと何度も思いましたが、前を行く井原さんに絶対についていくんだと踏ん張りました。

そうしてなんとか登り切り、根本中堂に戻ってきたのがスタートから4時間ちょうど。スタート直後の渋滞で失った20分を、取り戻したんだと思ってました。この時は、代わりに電解質を思いっきり失ってたなんて、気づいていなかったけど。

根本中堂の第二エイドでは、お蕎麦をいただきました。比叡山の鶴喜そば、めちゃくちゃうまかった。2リットル近く持っていた水もほぼ空になっていたので、ハイドレーションパックいっぱいまで補給しました。塩昆布やポテトチップスで塩分もとって、「比叡」と焼印の入ったどら焼きを手にとってエイドを出発しました。時刻は13:10、残る距離は30km。井原さんとこれは行けるねなんて、話しながらの出発でした。

25km 横高山の入り口で

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根本中堂からは、京都一周トレイルのコースに沿ってしばらく走ったあと、一気に山を下っていきます。それまで何ともなかった右膝が、石段の階段が続くところで悲鳴をあげ始めました。着地するたびに右膝が痛みます。痛みに耐えかねて何度か立ち止まる僕に、井原さんがカニ歩きを教えてくれました。こうやってたまに横向きに降りるといいよと。横を向いて左足から着地してみると、確かに痛くありません。膝が痛くなるとカニ歩きに切り替え、何とか下りきりました。

地蔵前で横高山の方に折り返してすぐ、25km付近で異変に気付きました。平坦な道でスピードも出してないのに、心拍が上がりきって下がらない。動悸がします。目眩がし始め、意識も朦朧としてコース脇にへたり込みました。井原さんが心配そうに声をかけてくれますが、座っていても心拍が下がらない。立ち上がって、数メートル進んでみたけど、やっぱりだめでした。

「先に行ってください」井原さんにそう言いました。井原さんは「この先で会おう」と言ってくれました。ぎゅっと握手して約束を交わし、先を行くその背中を見送りました。

それから20分程その場に座り込んでいました。もうこのままリタイアしようと思いました。水を飲んでみたり、持ってたジェルを補給してみたり、色々試しながらふと塩熱サプリを持っていることを思い出し、数粒食べてみました。これが当たりでした。猛暑の中、何リットルもの汗をかいて電解質が失われてたんですね。脱水症状なんて初めての経験ですが、塩熱サプリ持っててほんとよかった。

そうして何とか立ち上がり、数十メートル進むと川が見えてきました。他のランナーの輪に加わって、僕も頭から水をかぶります。「行けるところまで行こう」そう思いました。リタイアするのはいつでもできるけど、今自分に負けたらこの後もずっと負け続けるような気がする。行けるところまで行って、だめなら仕方がない。限界まであがいてみようと思ったんです。

34km 横高山の登りと滝寺まで

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脱水症状は落ち着いてきたものの、少し登るとすぐに息がきれて足がふらつくので、途中で何度も立ち止まりつつ、横高山を登ります。ほとんど無心で、目の前のランナーの足を見て、全く同じところにただ足を置くことだけに集中していました。そうして、何とか横高山を登りきり、続く水井山も無心で登りました。水井山からの下りは、右膝の痛みとの戦いでした。たまにカニ歩きを混ぜながら、たまに止まって膝周りのストレッチをやりながら、騙し騙し下ります。

続く仰木峠から大尾山までのゆるやかな登りで、ようやく少し走れるようになりました。完走はほとんど諦めていたけれど「もしかしたら...」という希望が、ほんの少しだけ灯りました。ゆるい登り坂を走っていると、他のランナーをどんどん追い抜いていける。その度にもしかしたら完走できるかもしれないという思いが、少しずつ大きくなっていきました。

そして滝寺に着いた時には、横川中堂の関門突破のためのプランが頭の中にまとまっていました。

  • 3A仰木峠までの4kmを40分で登る (1km10分ペース)
  • 仰木峠からのロードの下り4kmを20分で下る (1km5分ペース)
  • 4A横川中堂までの3kmを40分で登る (1km13分ペース)

これが関門突破の唯一の道だと思いました。45km地点の横川中堂の関門は18:30に締まります。残り11kmを1時間40分。かなり無謀なことはわかってました。僕にとって、平常時でも1km5分は厳しいペースです。登りだって、これまでは1km15分くらいかかっていました。

でも、やるんだよ!

37km 3A 仰木峠

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滝寺からはロードの登りです。ここでは、天候が味方してくれました。あれだけ晴れていて暑かったのに、ここに来て曇り空に変わって、微妙に涼しくなってきたんです。ロード区間で30度超えてたら、絶対無理でした。登りだから右膝も痛くない。心拍上がって苦しいけど、何とか耐えました。そして第三エイド、仰木峠に17:21に到着。プランからは1分遅れたけど、まだ行ける。絶対行ける。エイドにいる他のランナーが何人かもう無理だって話していたけど、聞こえないふり。手作りのおにぎりやおはぎを頬張りながら、仰木の地元の方々の「がんばってね」という言葉と、餡子の甘さを噛み締めていました。

17:23、仰木エイドを出発。気合いを入れて、ロードの下りを1km5分ペースでかっ飛ばしました。下りの重力で、足をとにかく回転させ続けます。少しでも緩めたらそのまま止まってしまうと思って、慣性で足を回し続けるイメージで走りました。肺は悲鳴をあげていたけど、右膝の痛みはなぜか全く感じませんでした。圧倒的な疾走感。わずかな可能性に賭けて始めたこのオンボロの関門突破プランだったけど、最早強迫観念になっていました。キロ5分で走るか、死ぬか。

ロードを下りきって折り返すところに、鏑木さんが立っていました。微妙に達成感を感じて足が緩みかけたところでした。鏑木さんの姿を見て、ドキッとしました。サボっているところを先生に見られたような感覚。まだ何も成し遂げたわけではないのに、足を緩めようとした自分が恥ずかしかった。なので、もう一度加速しました。そしてすれ違うとき、鏑木さんが「絶対行ける」と声をかけてくれました。絶対行ける。やっぱりそうなんだ、絶対行ける。そして、関門まで残り3kmの登りに挑みます。

45km 4A 横川中堂の関門

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関門閉鎖まで残り40分。この時間に横川を目指している周りのランナーは、みんな同じ気持ちだったと思います。きつい登り、でもペースは緩められない。ギリギリの状態です。横川を目指す綱渡りツアー、みんな一言も発せずに、グループになって坂を登っていきました。

何とか琵琶湖展望台を超えて、少しだけドライブウェイを通り、横川に向かう最後のトレイルに突入します。もう心肺も脚も限界で、立ち止まりそうになったところで建造物が見えてきました。ついに最終関門、横川中堂のある横川エリアに到着です。残り10分。

だけど、ここで100段以上ある石段が待ち構えてました。周りにいたランナーは数人。最初は先頭を歩いて石段を登っていた僕も、途中で限界に達して先頭を譲り、最後尾からついていきました。必死で前の人に食らいつき、最後の力を振り絞って、ついに登りきりました。残り7分。

もう、関門突破は確実だと思いました。あとは駐車場までフラットな参道を走っていけば突破です。ついにやったんだという達成感に包まれ走っていると、駐車場の少し手前でコースのガイドをしていたボランティアスタッフの人が叫んでいます。「あと5分!400メートル登れば関門ですよ!」

顔面が青ざめました。もう駐車場目の前なのに、ここから登りのトレイルがあるなんて......後ろを走っていたランナーが「もう無理だよ!」と叫びました。ここまで、絶対に行けると信じて登ってきた僕も、さすがにもう無理だと思いました。その時、僕の前にいたランナーが思いっきり走り始めたのです。それでスイッチが入りました。みんな一斉にトレイルに突っ込んでいきました。無我夢中で腕を振り回し、ただただ走りました。本気で突っ走りました。登りとか、下りとかよくわからなかった。ただ進みました。そして突然トレイルを抜けて見えた駐車場。関門を示すポールの傍に立ち、時計を見つめるスタッフが時刻を告げます「18時29分!」

残り1分を切っていました。本当にギリギリの、関門突破です。最後に一緒になだれ込んだみんなで、ハイタッチして喜び合いました。まだゴールしたわけではないけど、諦めかけた完走が、手の届く位置まで来たのです。

50km ゴール

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ゴールまでは残り5km。3km下って、2km登ります。エイドを出発した時点で、制限時間までは1時間20分ありました。横川までハイペースで飛ばしてきた僕は、完全に油断していました。余裕で行けるだろ、くらいに思っていました。その余裕は、走り始めてすぐに消え去りました。

右膝が完全に死んでいたんです。走りやすい林道なのに、足を置くたびに痛みが走りました。これはまずいなと思っていると、後ろからスイーパーの方々がやってきました。僕の後ろにもランナーがいたはずなのにと思って「僕が最後ですか?」と聞いてみました。僕が、一番最後のランナーでした。

男性が2名、女性が1名、合計で3名のスイーパーの方々が、一緒に走ってくれました。下りを足を引きずりながら進む僕の後ろで、このあたりのコースの話や、ナイトランの話、石川選手の話なんかをされてました。僕は、1年前にランニングを始めてから、ずっと1人で走ってきました。ロードを走る時もトレイルを走る時も、誰かと一緒に走ったことがありませんでした。そしてマラソンやトレランは、そういうもんだと思っていました。己との戦い。1人で、自分と戦うのが、走るということだと。でも、今回井原さんと一緒に走って楽しかった。途中からは1人旅だったけど、でも常に周りにランナーがいて、一緒に関門を目指したり喜び合ったりしました。スイーパーの方が雑談しているのを聞きながら、こういうのいいなと思いながら走りました。3名だったスイーパーの方々に、途中から分岐点でガイドをされていた方々が加わり、最終的には7人くらいの大所帯になりました。

下りの3kmが終わり、最後2kmの登りに差し掛かりました。残り時間はちょうど30分。下りで50分も使ってしまったわけです。でも、登りは膝が痛くない。頑張りさえすれば、ゴールできるかもしれない。そう思って最後の登りに挑みました。

脚も、体力も、気力も、全てを使い切った後の空っぽの状態でした。最後の登りで脚が動いたのは、スイーパーの皆さんのおかげでした。僕の脚が止まりそうになると、手を叩きながら「イチ・ニ!イチ・ニ!」と声をかけ続けてくれました。僕はそのリズムに合わせて、脚を前後に動かすだけです。

トレイルの区間が終わって、残り1km舗装路の急登に差し掛かりました。残り12分。スイーパーの皆さんも同じ急登を登りながら、ずっと励まし続けてくれました。とうに限界に達していた僕の脚だけど、段々壁のように鋭角になる登り坂でもペースが落ちません。イチ・ニ!イチ・ニ!のリズムに乗って脚を動かし続けました。

ゴールの明かりが見えてきて、急登を登りきり、延暦寺会館の前まで何とかたどり着いて、もう全てを絞りきって倒れこみそうになった時に、誰かが叫ぶ声が聞こえました。

「走れ!」

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ゴールまでの残り数十メートルは朦朧とする意識の中でいろんな人の声に背中を押されて駆け抜けました。10時間59分17秒。制限時間43秒前のゴールです。

ゴール地点には、先に完走して待っていた井原さんがいました。25km地点で別れる時に交わした「この先で会おう」という約束は、結局ゴール地点になっちゃったけど、ぎりぎり守れたことにします。そして隣には妻がいて、ボロボロの汗だくの状態でしがみついてしまいました。後で亡霊みたいだったと笑われました。

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順位は409位でした。1000人近く出走したレースで、完走率は46%だったそうです。厳しい、本当に厳しいレースでした。順位はびりっけつですが、完走できたことが最高に嬉しかったです。横川から一緒に走って下さったスイーパーの皆さん、鏑木さん、スタッフの皆さん、ゴール地点にいたランナーの方々、多くの人に祝福していただきました。最後に鏑木さんにインタビューされた時は嬉しくて、調子に乗ってベラベラ喋りまくってしまいました。後で妻にしゃべりすぎって言われるくらい。

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比叡山インターナショナルトレイルラン2015、距離50km、累積標高 3,700mという数字以上に本当に過酷な厳しいレースでした。走っている間は辛くてもう2度とこんなことしたくないと思ってましたが、終わってみると寂しいですね。来年2回目が開催されるなら、ぜひまた走りたいです。次はどんなレースに出ようかな。家に帰って、妻と井原さん夫妻と、酒を飲みながら夜遅くまで話し込みました。