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京都でトレランをしているおじさんのブログです

気持ち

こんにちは。株式会社はてなでディレクターとプロデューサーをしている二宮と申します。

はてなのディレクターや企画系のスタッフ、ディレクター経験者がWebサービスディレクションに纏わるブログ記事をリレー形式で綴っていく「はてなディレクターアドベントカレンダー2016」も本日で最終日。そのトリを務める本エントリーでは、日々の仕事の中で、ディレクターにとって一番大事だと感じていることについて書こうと思います。

僕がWebサービスディレクションをする上で、一番大事だと思っているのは気持ちを持つことです。チームマネジメントや開発フロー選定や進行管理、数値分析やマーケティング、企画やドキュメンテーションやプレゼンテーションなど、ディレクターに求められるスキルは多岐に渡ります。それぞれの手法について学び、守備範囲を広げたり、得意分野を深掘りしたり、自分のディレクション力を高めていくことも大事なことです。

でもどんなに自らのスキルを磨き、プロジェクトの成功確率を高め、失敗確率を下げられたとしても、必ず失敗する時がやってきます。むしろ成功よりも失敗の方が多いかもしれない。

それでも挫けずに前に進み、理想を実現するために挑戦し続ける原動力となるのは、こういうサービスを作りたい、こういう世界を実現したい、もっと使いやすくしたい、もっと楽しく、もっと便利で、もっと素敵な、もっともっと良いものを作りたいといった、そんな自分の気持ちだと思っています。

近藤さん

僕がはてなに入社したのは今から9年半程前はてなでは初めてのディレクター職としての入社でした。当時はエンジニアの中から新サービス開発の才能を認められた人がクリエイターとしてサービス開発をリードし、ディレクターである僕は、作家に付きそう編集者のように、クリエイターをサポートしながら一緒にサービス開発を進めていく役でした。

最初に一緒に仕事をしたクリエイターが、当時は社長で現在は会長の近藤さん (id:jkondo) です。その頃近藤さんはアメリカのシリコンバレーに住んでいて、新サービスの開発に打ち込んでいました。僕は時にアメリカへ出張し、普段は日本の鉢山からテキストやビデオ通話越しに近藤さんと話をしながら一緒に開発を進めていました。

当時近藤さんが作っていたサービスの1つが、はてなスターです。世の中の色んなブログや記事に☆をいくつでも好きなだけ付けられるという、熱い想いのこもった野心的なサービスです。僕は近藤さんをサポートするディレクターとして、ヘルプや関連ドキュメントの整備、多言語対応のための言語ファイルの編集、その他リリースに伴って必要なあれこれの対応をしていました。

そして迎えたリリース日、2007年7月11日でした。

リリースの何日か前から近藤さんは一時的に日本に帰国していたのですが、東京の鉢山オフィスではなく、三重県にあるご実家に篭って作業されていました。だから、鉢山オフィスにいた僕からはリモートでテキストやビデオ通話でのやり取りだったんです。それでもリリース直後から、僕は圧倒されました。画面越しに伝わる、近藤さんの気迫がとにかく凄かった。当時取締役だった梅田さんはそんな近藤さんの様子を見て「(彼の) 集中力とエネルギーをよく体に記憶させるといい」と仰っていました。その後の人生の糧になると。僕は当時、近藤さんの書いた全てのテキストを貪るように読みました。社内向けのエントリーは勿論、特に影響を受けたのは告知ブログに日々投稿されるエントリーの数々です。そこに綴られたユーザーさんからの要望への回答は、1件1件全てに近藤さんの気持ちが込められていました。そしてリリースから2ヶ月が勝負だからと、リリース日に着火した熱量を増幅させ続けて走り続けていました。

僕は、はてなに入社する前はポータルサイトを運営する会社にいました。小さなベンチャーからキャリアをスタートさせた僕にとっては、とてもとても大きな会社です。僕はそこで新サービスのディレクションを担当し、膨大なリリースまでのフローを全部こなして、数ヶ月の深夜勤務や徹夜や休日出勤が続く生活の後にようやくリリースに漕ぎ着けました。大企業で会社の戦略的な新サービスを担当してリリースするのは本当に一苦労で、リリースを成し遂げた後に社内の色んな人から祝福されました。よくやったね、よくやり遂げたねと。リリースした数日後には有休をとって、家族を連れて箱根の温泉にでかけました。

近藤さんのリリース後の姿勢は、そんな態度と180度違ったんです。リリースして、ユーザーさんに価値を届けて、そこからやっとスタートだった。そして何より、サービスに込められた気持ちが、もう全然違いました。

失敗失敗失敗

それから、はてなで色々なサービスのディレクションを担当しました。はてなダイアリーやキーワード、フォトライフなど既存のサービスや、うごメモはてなのように任天堂さんと一緒に開発したサービスもありました。はてなの開発者は皆、驚くほどの強者揃いです。エンジニアでもデザイナーでもない自分にはチームを率いて周囲を納得させられる腕もスキルもないので、気持ちを拠り所にしていました。チームの誰よりも気持ちを込められていて、チームの誰よりもサービスのことを考え続けられれば、何とかチームを引っ張る役割ができるということを学んだからです。

そうして数年後、僕は新サービスの開発を担当していくようになります。

新サービス開発は文字通り、失敗の連続でした。はてなランドはてなOneはてなアルバムはてなスペース。僕の担当した新サービス、その全てが終了してしまいました。

サービスの終了はとても辛いものです。何よりも使ってくれたユーザーさんと、開発を担当してくれたチームメンバーに申し訳なく、胸が張り裂けそうになります。こういうサービスを作りました、ぜひ使ってくださいとお願いして、面白そうだから使ってみようと使ってくれた方に、やっぱりうまく行かなかったから終了しますというのは、非常に身勝手な態度のように思えます。また、自分を信じて新しいサービスを一緒に作ろうとついてきてくれたメンバーの、書いた全てのコードやデザインを無に帰すことになり、一生懸命作り上げたものを全て叩き壊す辛さがあります。

サービスを終了して申し訳なく感じるこの気持ち、この申し訳なさは、次に活かすことでしか責任をとれません。責任をとって辞めるのは簡単なことですが、それでは本当に全てが無に帰してしまう。せめて、サービスを使ってくれたユーザーさんの気持ちや、一緒に開発してくれたメンバーの気持ちを、次に活かさないことには浮かばれない。気持ちを次に繋いでいきたい、そしてその先でいつか本当に面白い、良いサービスを作りたい、そう考えていました。

気持ちを繋ぐ

ここ数年は、他の会社さんと一緒にサービスを作っています。集英社さんとマンガ投稿サービスの少年ジャンプルーキーを、KADOKAWAさんとWeb小説投稿サービスのカクヨムを作りました。

これまではてなの社内だけで、ディレクターが強い気持ちを持ってチームを引っ張っていくという構図でしたが、今は様々な人達のみんなの気持ちを繋ぐ仕事をしていると思っています。

最近、カクヨムではトップページのリニューアルを行いました。このリニューアルを行う前に、もう一度プロジェクトのメンバー全員でサービスの方向性を見直す機会がありました。サービスのオープンから半年が経ち、もう一度サービスの今後について、みんながどうしていきたいのか、どんなサービスにしていきたいのかをもう一度見つめ直して、その上でリニューアルを行っていくことにしたのです。

カクヨムは、KADOKAWAさんとはてなが共同で開発にあたっているサービスです。だから関わる人の数も多いし、元々サービスを始めたいと考えた強い気持ちを持つ方は社外にいます。これまでのようにディレクターの自分が強い気持ちを持っていて、それで引っ張るというやり方ではうまくフィットしません。

今後の方針を見直そうという事になった時、KADOKAWA編集部の方の過去の発言やインタビュー記事を全て読み漁りました。そうして編集部の方がどんな思いで、どんな気持ちでカクヨムを始めようと思ったのか、その源泉をもう一度最初から見つめ直そうと思いました。そしてサービス運営に関わる両社の個々のメンバーの気持ちと、ユーザーイベントで直接伺ったカクヨムユーザーさんの気持ちと、自分の気持ちとを繋いでひとつの方針ができました。それをカクヨムが目指すものという文章にまとめて、リニューアルの事前告知として投稿し、ユーザーの皆さんからも良い反応をいただけました。

多くの人が関わるプロジェクトで、他社さんとの共同開発だったり、他社さんからの受託で開発する場合だったりしても、やっぱりそこに込める気持ちがあるかどうかが大事だと思います。その気持ちの源泉の1つに、自分の気持ちが共鳴できていないとサービスの方向性を指し示す (ディレクションする) ことは難しいですし、独りよがりな気持ちだけでは関係するメンバーと同じ方向を向くことができません。

ディレクター自身が強い気持ちを持っていることに加え、関係するメンバーと気持ちを繋ぐこと、その気持ちをユーザーさんにも伝えることもまた、同じように大事なことなんだと思います。

最後に

ネットワーク外部性が働いたり、一握りの巨大サービスが市場を寡占しがちなWebサービスの業界において、長く長く5年10年20年と続いていくサービスを作り上げるのは並大抵のことではありません。その時のブームに乗っかったり、他のサービスを丸ごと真似たり、法律の穴を突いたりして、一時的にアクセスを集めるサービスを作ることもできるのでしょう。

でも本当にそこに作り手の気持ちがこもっているのか。やっぱりそれが一番大事なことだと思うのです。そしてサービスが困難に直面したり、サービスが失敗して終了してしまったり、厳しく辛いことがあったとしても尚進み続けるには、高額な給与やストックオプションや福利厚生や社内的な地位やブクマ数だけでは、やっぱり持たないと思うのです。心の奥底から湧き出る、気持ちがなければ。

というわけで、ディレクターには気持ちが一番大事という話でした。最後までお読みいただき、ありがとうございました。