あの子たちを迎えに

本気で走った。死ぬ気でホームに続くエスカレーターを駆け上がり、もつれそうになる両脚を必死で回転させ、喉から飛び出しそうになる心臓をすんでのところで抑えつけて。

飛び乗った瞬間閉じる新幹線のドア。博多行き最後の新幹線だ。間に合って良かった。全ての気力やら体力やら性欲やらを総動員して良かった。ぜえぜえと息を切らせながら、なんとか自由席にへたり込んだ。

それから1時間程経つものの、未だに動悸が治まらず、胃のあたりが気持ちが悪い。なぜだろう。歳のせいだろうか。読んでた本のヒロインが可愛いすぎるからかもしれない。

時速300km近くのスピードで飛ばすのぞみで、勝手気ままに振る舞うあの娘との日々を追う。「恋と新幹線って似てるよね」隣の席に座ったその娘は言った。「どちらもすごいスピードで進んじゃって、急には止められないんだから」僕は笑って「さっきからパンツ、見えてるよ」と教えてあげた。「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」そういえば昨日会社でそれはズボンだって教えてもらった気がするよ。

さっき岡山を過ぎた辺りで、着替え一式を置き忘れて来てしまったことに気付いた。会社の机の足下のビニール袋に入った、シャツとズボンとパンツと靴下。掃除のおばさんに棄てられてしまわないか心配だ。今夜の着替えはもっと心配だ。だからどなたかお願いです。彼女にきっと伝えて下さい。それは僕のパンツのようで本当はズボンなんだよと。もっと大事なことは自分で言います。

もうすぐ博多。子供たちの待つ地は近い。

追記(8/25)

今日会社に出社したら机の足下のビニール袋に誰かが「ごみじゃありません」と書いたメモを貼り付けてくれていた。
ありがとうありがとう。